10人以下の会社でも就業規則は必要?作っていないと起こりやすいトラブルを解説

「うちはまだ人数が少ないから、就業規則までは必要ないのでは?」そのようにお考えの事業者の方も多いのではないでしょうか。
たしかに、法律上、就業規則の作成と届出が義務になるのは、常時10人以上の労働者(パート・アルバイトを含む)を使用する事業場です。ただ、10人以下だからといって、就業規則がなくても安心とは限りません。むしろ小規模事業者ほど、従業員とのちょっとした行き違いが、そのままトラブルにつながりやすいことがあります。就業規則というと、少し堅い書類のように感じるかもしれません。しかし実際には、会社のルールを明確にし、従業員との認識のずれを防ぐための大切な土台です。
この記事では、10人以下の小規模事業者にも就業規則の整備をおすすめしたい理由として、次の3点をわかりやすく解説します。
・就業規則がないと起こりやすいトラブル
・モデル就業規則だけでは足りない理由
・助成金活用と就業規則の関係
10人以下でも就業規則を作った方がよいのか
結論からいうと、10人以下の会社でも、就業規則を作成しておく方が安心です。
なぜなら、従業員とのトラブルは会社の規模に関係なく起こるからです。
むしろ少人数の会社では、1人の遅刻、欠勤、退職、残業代請求などが、現場に与える影響も大きくなりやすいです。また、就業規則がないと、会社として「どこまでがルールなのか」、「何を根拠に対応するのか」を説明しにくくなります。「人数が少ないうちは、口約束や慣例で回る」と思われがちですが、従業員が増えたり、価値観の違う人が入ってきたりすると、それだけでは対応しきれない場面が出てきます。
就業規則がないと起こりやすいトラブル
1.問題社員への対応が困難になる
もし従業員が次のような問題を起こしたらどうしますか?
・お客様から何度もクレームが出るような接客を続ける
・長期の無断欠勤をし復職にも応じない
・会社のお金を横領した
放置できない重大な問題なので、減給や解雇など懲戒処分を検討するかと思います。しかし、就業規則に懲戒規定を定めていなければ、原則として懲戒処分を行うことは出来ません。もし懲戒規定がない、または不十分な場合に懲戒処分を行った場合、不当解雇や不適切な処分として争われるリスクがあります。
こういったリスクを避けるために、小規模事業者であっても就業規則を作成しておくことが大切です。
2.退職・休職をめぐるトラブル
小規模事業者で意外と多いのが、退職や休職をめぐるトラブルです。
たとえば、退職では次のようなケースがあります
・突然退職を申し出て、残りの出勤日を有給休暇にし、引継ぎをせずに辞める
・職金制度があると思っていたと言われる
もし就業規則に引継ぎの規定を設けていれば、規定に則り話し合うことができます。一方で規定がない場合、会社としては強く主張しにくくなります。
また、退職金については、過去に退職金の支給実績がある場合、退職金制度があるとみなされ、退職金を請求される可能性があります。
休職では次のようなケースがあります
・休職期間を設けておらず、いつまで待てばよいのかわからない
・診断書の提出を求めるのかどうか決めていない
休職に関する規定がないと、会社としては復職や退職を打診することが難しくなります。もし復職規定があれば、休職期間満了により自然退職とすることも可能ですが、規定がない場合はそうはいきません。
また、診断書や休職期間、復職手続きについて定めがないと、場当たり的な対応になりやすく、「ほかの人と対応が違う」といったトラブルの原因になります。普段は問題なく回っていても、退職時や関係が悪くなったときに、一気にトラブル化することもあります。だからこそ、問題が起きてからではなく、問題が起きる前に決めておくことが大切です。
3.服務規律を明確にできない
服務規律とは、従業員が働くうえで守るべき会社のルールのことです。具体的にはセクハラ・パワハラの禁止、営業秘密や個人情報の取扱い、副業や身だしなみなどについて定めます。
もし従業員がこのような問題を起こした場合、どう対処しますか?
・従業員が職場で撮影した写真を個人のSNSに載せたが、重要な情報が映り込んでいた
・セクハラ・パワハラをする従業員がいる
このような場面では、会社としては注意や指導をしたくても、就業規則にルールが明記されていないと、「何が問題なのか」「会社としてどこまで求めているのか」を説明しにくくなります。特に小規模事業者では、これまで口頭で済ませていたことでも、従業員が増えたり、価値観の異なる人が入ったりすると認識のずれが生じやすくなります。
そのため、SNSの利用、ハラスメントの禁止、秘密保持、身だしなみなど、職場で守ってほしいルールは、服務規律として具体的に定めておくことが大切です。特に近年では、SNSの使い方をめぐるトラブルも起こりやすいため、就業規則の内容が現在の働き方や職場環境に合っているか、定期的に見直すことも重要です。
モデル就業規則をそのまま使えば十分なのか
これもよくある誤解です。厚生労働省はモデル就業規則を公表していますが、これはそのまま使えば安心というものではなく、あくまで参考資料です。厚生労働省自身も、各事業場の実情に応じて作成するよう案内しています。つまり、モデル就業規則をそのままコピペしただけでは、自社に合わないことがあります。
モデル就業規則だけでは足りない理由
会社ごとに、働き方や悩みはかなり違います。
たとえば、
・シフト制で回している
・固定残業代を導入している
・副業を認めている
・退職金制度の有無が違う
・育児・介護、不妊治療などへの配慮が必要になっている
このように、会社によって必要なルールは異なります。モデル就業規則は一般的な形を示したものなので、自社の実態に合わせて調整しなければ、かえって使いにくい就業規則になることもあります。そのため、ネット上のテンプレートやモデル就業規則をそのまま使うのではなく、会社の実態に合った形に整えることが大切です。
就業規則を社労士に依頼するメリット
就業規則は、単にひな形を埋めれば完成する書類ではありません。
会社の実態に合ったルールを、法令に沿って整理することが大切です。そのため、社労士に依頼するメリットは大きいです。
1.自社に合った内容にしやすい
社労士に依頼すると、次のような点を踏まえて、自社に合った内容に調整しやすくなります。
・従業員構成
・労働時間の運用
・賃金制度
・トラブルになりやすいポイント
2.法改正への対応を反映しやすい
就業規則は、一度作って終わりではありません。法改正や制度変更があれば、内容の見直しが必要になることがあります。厚生労働省のモデル就業規則も継続的に改訂されています。
3.トラブル予防の視点で整えられる
「作ること」自体が目的ではなく、会社を守るためにどう整えるか が大切です。
社労士に依頼すると、「この会社ではどこが揉めやすいか」、「どのルールを明確にしておくべきか」という視点で整えやすくなります。
助成金活用でも就業規則が必要になることがある
ここは、小規模事業者の方にぜひ知っておいていただきたい点です。助成金の中には、就業規則等に制度を定めていることが要件の一部になるものがあります。たとえば、キャリアアップ助成金の正社員化コースでは、正規雇用労働者への転換制度を就業規則などに規定していることが受給要件の一つとして案内されています。つまり、「後から助成金を使いたい」と思っても、必要な制度が就業規則に入っていなければ、スムーズに進めにくいことがあります。
特に、
・正社員転換制度
・両立支援の制度
・賃金制度
などは、助成金と就業規則の関係が出てきやすい部分です。そのため、助成金を活用したいと考えている会社ほど、就業規則を後回しにしない方が安心です。
まとめ
就業規則は、常時10人以上の事業場では法律上の作成・届出義務があります。
ただし、10人以下の会社であっても、就業規則が不要というわけではありません。
むしろ小規模事業者にとっては、
・ルールの不明確さによるトラブルを防ぐ
・問題社員への対応の土台を作る
・退職や労働時間をめぐる認識違いを防ぐ
・助成金活用の準備を整える
という意味で、就業規則を整えておくことはとても大切です。また、モデル就業規則は便利な参考資料ですが、そのままでは自社の実態に合わないこともあります。厚生労働省も、各事業場の実情に応じて作成するよう案内しています。そのため、就業規則は「とりあえず作る」のではなく、自社に合った内容で整えることが大切です。
不安がある場合は、社労士に相談しながら作成・見直しを進めるのがおすすめです。
